舞台「スリルミー」大千穐楽の感想

昨日名古屋市芸術創造センターで、舞台「スリルミー」の大千穐楽を見てきました。

私がみたのは、福士誠治さん、成河さん出演の夜の部です。

女性が多い

会場に着いたとき、99%観客が女性でした。ネットの前評判によるとボーイズラブの要素があるとのことだったので少し納得しました。

あらすじ

1920年代、全米を震撼させた二人の天才による衝撃の事件を基にした究極の心理劇

フライヤーキャッチコピーより

1950年代のアメリカ。30年以上服役し、仮釈放請求の場で”私”が学生時代を語り出すところから物語は始まります。

超人思想と歪んだ感情

幼なじみだった”彼”へ友達以上の感情を持つ”私”。そしてそれを嘲笑うように利用しようとする”彼”は、夜毎あるゲームに興じていました。
自らをニーチェの言う「超人」と称する”彼”は社会の倫理を飛び越えた存在と自認し、盗み、放火など、悪事に”私”を駆り立てていたのです。

”彼”と一緒にいたいがために渋々悪事に手を染める”私”。支配と服従の関係が出来上がっているように見えた二人は血の契約まで交わします。”彼”の傲慢さに戸惑いつつも惹かれ愛情を求めてしまう”私”の気持ちは徐々にエスカレート。そんなある日、放火ではスリルを感じなくなりつつあった”彼”は完璧な誘拐殺人をしようと持ちかけます。

主従関係の行方

誘拐殺人を本当に実行してしまった二人。完璧な犯罪だったはずが、現場に落とされたメガネから”私”の存在が浮上してしまいます。傲慢不遜で冷徹な男である”彼”は”私”に指示を出し切り抜けようとするも”私”は自白。二人とも逮捕されてしまいます。

司法取引に応じようとする”私”に”彼は”「助けてくれ」と懇願し結果的に二人とも99年の終身刑を言い渡されてしまう。ここでラスト10分ほど。しかし、ここからが主従関係の逆転の始まりになるのです。

実はメガネは”私”がわざと落としたもの。スリルを感じなくなった”彼”がそのうち殺人に興味を持ち始めると思っていた”私”は”彼”を独占できるチャンスと捉えていたのです。司法取引をチラつかせたのも”彼”が止めると分かってのこと。司法取引をせず死刑になっても、終身刑でも永遠に”彼”は自分が独り占めできる存在になれる。倫理を超越した本当の「超人」は”彼”ではなく”私”だったのです。

”彼”の本質

この舞台は終始”私”の頭の中の”彼”を語り続けるもの。ラスト10分ほど前までは一貫して”彼”は自分の優秀さに溺れ”私”を利用する冷徹な存在である一方、自分の中にある「欠損」を常に感じているコンプレックスの塊でした。

登場はしませんが弟ばかり可愛がる父の存在がちらつきます。その「欠損」を埋めるためにすがったのがニーチェの超人思想。しかし、「超人」である自我にもほころびが生じてきます。そのほころびを生んだのが”私”の歪んだ愛情でした。

”彼”がずっと父親に望んでいたけど得られなかった愛情は、皮肉にも”私”が与えてくれていたのです。判決前の夜中に心を乱し、ついにメッキが剥がれてしまいます。判決後護送車の中で愛のために社会の倫理を超越した”私”を認める”彼”は”私”の所有物となってしまう。

ですが、同時に”私”も自分が作り上げた”彼”の亡霊に取り憑かれて生きています。美しさと優秀さで魅了し、危険な脆い精神性で”私”をいつまでも離さない”彼”。互いに所有しあう血の契約書は永遠に有効なのでした。

シンプルなダークミュージカル

音楽はピアノ伴奏のみ、二人の歌声と演技が時には摩擦し時にはぴったりと重なり合う。シンプルだけど最後まで心を持っていかれるダークミュージカルでした。舞台美術も非常に抑えられたもの。二階建てで、舞台中央の段差部分に白い線が引いてあり、隅に小道具で家具が置いてあるだけ。二人のダイナミックな動きが際立つものになっていました。

二人の歌声と演技に魅了されました

ちなみに福士誠治さん目当てでチケットを買ったのですが、成河さんの学生時代と服役後の中年期を演じ分けには目を見張るものがありました。中年期の低く暗さのある歌声と、学生の高くハツラツとしかし狂気をたたえた声は全く別のものだったので、長い服役での心の変化が表現されていたと思います。

そして、時には傲慢不遜に歌い上げ、時には激しく感情をむき出しにする福士誠治は”彼”そのものになりきっていました。ラストのスタンディングオベーションで舞台に上がる時の彼と演技中の”彼”の歩き方は全く違うものでした。2011年の「パレード」以来久しぶりに舞台で福士さんを見たのですが、やっぱり彼は舞台の人なんだなと感じました。

いつかまた

グッズも充実していて、パンフレットと福士さんの写真を買ってしまった私。思いがけない出費でしたが、とても心動かされる作品で、自分もこんな舞台になる作品をいつか書きたいと思いました。いつかまた、福士さんの舞台を見に生きたいです。

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